Jovian fizzのういろう様からSSをいただきました!⊂(*´∀`*)⊃

 

もどかしい二人の距離に悶々する素敵なSSでございます。

わたくしとんぼはこのSSを悶えながら読ませていただきました。もう亜美ちゃん可愛すぎです////

亜美ちゃんとの距離にドキドキするまこちゃんの可愛さも、もちろん負けてはいません!⊂(*´∀`*)⊃

 

そして僭越ながら、私が差し上げた絵も挿入させていただきました^^

 

 

ういろう様、素敵なSSを本当にありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ポップコーンの甘い匂いがする施設内。
施設の壁面には大きなポスターがところ狭しと並んでいた。
そのポスターを一通り眺めて、まことは視線を落とす。
 
「何か観たい映画ある?」
 
件の女の子は上映予定時間表とポスターを交互に見つめていた。
 
「そうね…」
 
指先をそっと顎に添えて、亜美はとあるポスターに目を留めた。
しばし迷いながら、やがて躊躇いがちにまことを見上げる。
 
「あれ…とか…どうかしら…?」
 
“あれ”と指差されたポスターはアクション大作。
 
どう考えても亜美のイメージではなく、まことは目を丸くした。
体力勝負で走って、汚れて、殴って、最後は爆発ドカーン、
そんな感じの映画だ。
 
「私は好きだけど…結構、えぐいシーンもあるみたいだし、
 亜美ちゃん、大丈夫?」
 
「だいじょうぶよ」
 
亜美は笑顔で頷く。けれど――
 
「あのさ、折角だから亜美ちゃんが好きな映画を選んでいいんだよ
 別に私の趣味に合わせる必要ないから、ね?」
 
法廷を題材にした心理劇や、
医療現場の闇にメスを入れた問題作。
そんなポスターを指差して、まことは「どう?」と首を傾げた。
その所作に亜美は困ったように肩を小さくする。
 
「でも…っ、まこちゃん…きっと詰まらないわ…」
 
その様子に思わず頬が緩む。
 
「そんなの分からないよ
 私だってこういうの観ないわけじゃないんだよ」
 
確かに観ないわけじゃない。ただ確かに好んで観るというわけでもない。
それを知ってか知らずか亜美は首を縦に振らずに、
困ったようにポスターを見渡す。
 
「亜美ちゃんが観たいの観ればいいのに…」
 
呆れたように笑うまことに、亜美はぷんと頬を膨らませる。
 
「私はまこちゃんにも楽しんで欲しいの」
 
はいはい、と笑ってまことも改めてポスター群を見渡す。
アクション、ホラー、ノンフィクション、コメディー…
多種多様なポスターは個性的なようで紙一重で似たり寄ったり。
暫くポスターを眺めていたまことの目がふと止まった。
 
「あ…!
 ねぇ、亜美ちゃん、あれなんてどう?」
 
少し声のテンションが高くなったまことが指差したポスターは、
離れ離れになってしまった恋人の一途な恋物語。
 
まことは好きだし、亜美だって別に嫌いじゃないはずだ。
二人で観るというシチュエーションは気恥ずかしいけれど、
でも悪いチョイスじゃない。
 
まことが笑顔で振り返ると亜美は固まっていた。
 
「………?
 亜美ちゃん?」
 
名前を呼ばれて、はっと我に返った途端、
亜美の顔は赤く染まる。
 
「あ、あのっ…あれは…その…っ」
「亜美ちゃん?」
 
慌てた様子の亜美にまことは首をひねった。
 
「どうしたの?」
 
「だ、だいじょうぶよっ
 あの…やっぱり、最初のアクション映画を…観ない?」
「…どうして?」
 
亜美はちらりと恋愛映画のポスターを観た。
そして、やっぱりダメというように首を振って、
チケットセンターの方へまことを引っ張る。
 
「私、アクションでも全然、大丈夫だから」
「…でも……」
 
戸惑いが隠せない様子のまことに亜美はしゅんとして立ち止まる。
 
「…あの…だって…」
「ん?」
 
「…私…悲恋は…ダメなの…」
「嫌いなの?」
 
その問いに亜美はふるふると首を横に振った。
 
「嫌いじゃないわ…
 でも…あの…」
「なに?」
 
俯いた亜美をまことが覗き込むので、
亜美の視線の先で茶色の髪の毛がさらりと踊った。
 
「……私…きっと…
 泣いちゃうから……」
 
まことの目が点になる。
 
「…だめなの……結果の予想がついても…
 ハッピーエンドでも…バッドエンドでも…」
 
亜美の両手、胸元で合わせた指先が恥ずかしそうに細かく動く。
 
「あの…っ…」
 
真っ赤な顔して恥ずかしそうに。
ここまでされてしまったら、もう答えはひとつしかない。
 
「うん、分かった」
 
ぽんっと励ますように亜美の肩を叩いて、
まことはチケットセンターへ向かった。
 
「亜美ちゃんを泣かせちゃおっ」
 
語尾に音符が見えるような口調のまことに、亜美は必死で抗議する。
 
「まこちゃんっだめっ!」
「なんで?」
 
「だってっ恥ずかしいわ…っ」
「そんなことないよ
 絶対、かわいいと思うけど」
 
「…っ…ぅ…そんなこと…」
 
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
 
楽しそうにそう言うと「次の上映の回のチケット2枚ください」なんて、
あっという間にチケットを購入して、一枚差し出してくる。
 
「…まこちゃん……」
「ん?」
 
差し出されたチケットにため息をついて、
亜美はつんと拗ねた顔で受け取る。
 
「泣いた顔、見たら怒るわよ」
「……怒った顔もみたいかな…」
 
再度、ため息をつく亜美の顔はすっかり諦め顔の呆れ顔。
 
「次、一緒に観るときはすっごく重くて、
 眠くなるような難しい映画にしちゃうから」
 
捨て台詞のような言葉を小さい声で呟きながら、
段々と暗くなっていく通路を二人で歩く。
色々と話し合っていたせいもあり、
二人は上映開始時間ギリギリに滑り込む形になった。
既にスクリーンに翌シーズン公開の予告編が流れ、
広い劇場の9割以上の席が既に埋まっている。
 
そんな中を忍足で二人は席に着いた。
 
「ぎりぎりだったね」
「でも間に合ってよかったわ」
 
そんなことをヒソヒソ声で話し合っていると、
配給会社のロゴがスクリーンに映し出され、
劇場内がさらにしんと静まり返った。
 
まことも慌てて口を手でふさいで、しぃーーと指を当てた。
その様子に亜美はふふっと笑って正面を向く。
 
そのスクリーンの光に照らされた横顔は、
思わず見惚れてしまうほど綺麗で、
心臓が急にトクンと音を立てて跳ねた。
 
映画のテーマ曲が劇場内に響き渡る。
切なくも激しい恋を予感させる荘厳で悲しげな音色。
 
まことの跳ねたばかりの心臓はリズムを失ったまま、
スクリーンは2時間余りの恋の物語の始まりを映し出す。
 
困った…
 
まことの脳裏に浮かんだその言葉。
 
この映画を観たいと言ったのは、もともと興味があったからだ。
ヒロイン役は実力派として名高く、
相手役の男性は昔からまことが好きな俳優の一人だ。
その二人の競演、気にならないわけがない。
 
それなのに、国境も時間も超越した愛の物語より、
隣に座った小さな女の子の方がずっと心を捕らえて離さない。
 
――泣いてしまう、と言っていた。
 
あの時はきっと泣いてもかわいい、
そう思っていたのに、今はなぜか泣かせたくない。
泣いてる姿なんて見たくない。
 
どうしてこんな映画、観たいなんて言ってしまったんだろう。
押し寄せるのは後悔ばかり。
 
突然、鳴り響いた音楽に亜美がぴくっと身体を強張らせる。
そんな小さな動きにも反応してしまって、
映画はまだまだ序盤なのに、何度も亜美の顔をのぞき見てしまう。
その度、そんな自分が恥ずかしくなって下を向く。
 
何度目か横目で亜美を見たときに目が合って、思わず固まってしまった。
亜美はそんなまことに不思議そうに首をかしげて優しく微笑む。
微笑み返すことがなぜか出来なくて、きゅう、と拳を握り締めた。
 
情けない……握り締めた拳が小さく震える。
 
その手にふと視線を落として、隣に並ぶ亜美の脚に目を奪われる。
ほんの少し脚を動かしたら、触れ合ってしまうほどすぐ近く。
視線を上げれば腕も肩もすぐそこにある。
 
そんな当たり前のことに身体が強張る。
ほんの少しでも動かしたら触れてしまうような気がして、
まことは急に息苦しさを感じた。
 
スクリーンでは恋人同士がすれ違い、離れ離れになり、
悲しみと切なさが入り混じった悲鳴がスピーカーから漏れる。
 
――亜美ちゃん、泣いてないかな…泣かないで…
 
もう話の筋など頭に入ってこず、そんなことしか頭に浮かばない。
強張ったままの身体を慣らすこともできず、
握りこんだままの手にはすっかり汗がにじんでしまっている。
 
 
――ふと腕に触れる気配がした。
 
 
びくっと反応するまことに亜美は更に驚いて首を傾げる。
 
「だいじょうぶ?」
 
声は出さずに口の動きだけでそう言う亜美に、まことは勢い頷く。
これは自業自得だから、心配はかけたくなかった。
 
納得したのかしていないのか、
亜美は暫く考えるようにスクリーンを横目で眺め、
やがてゆっくりと手を差し出してきた。
その手の意図を図りかね、首を傾げるまことに、
亜美は手をグー、パーと二、三度閉じる。
 
にぎり、たいのかな……
 
まことが恐る恐る差し出した手を亜美はきゅっと優しく掴んだ。
驚いて亜美の顔を覗き込むまことに、
亜美は恥ずかしそうに俯いた。
 
亜美の顔はスクリーン色に染まっていても、
頬は赤くそまっていることが分かる。
 
なんで?どうして手なんか…?
 
まことの様子を見かねたのかもしれない。
それとも山場を迎える映画の悲劇を見守るために、
ただ誰かの温もりを感じたかっただけかもしれない。
 
亜美の意図は分からないけれど、それでもまことは、
硬直していた身体がほぐれていくのを感じた。
 
気づけば亜美はもうスクリーンに視線を移してる。
その横顔は映画が始まった頃に見た横顔と変わらぬ美しさで、
手に感じる温もりの分、余計にまことの心臓は音を立てて跳ねた。
 
折角、亜美に静めてもらった緊張が戻ってくるのを感じながら、
まことはスクリーンに視線を戻す。
 
 
きっとこの映画はハッピーエンドだ。
 
たぶん、きっと…
 
二人は幸せになるんだ…。
 
 
トクトクと心臓がまた早鐘を打ち出した。
つながった手の温もりは優しくて、微かに残酷。